【Vol.233】FIWA®代表理事リレー投稿

和風資産運用のススメ

寄稿:FIWA®協会理事長 岡本 和久CFA、FIWA

岡本和久

今回は私の好きなテーマである「和風資産運用」について三つの点から書きます。

● 日本的心情は長期投資向き

資産運用というとリスク、リターン、ポートフォリオなど英語がたくさん出てきます。何となく西洋の考え方が資産運用の基礎をなしているようなイメージがありますが、私は和風の感性が人生を通じての資産運用には非常に有益であると考えています。

日本人は農耕性が強いといわれます。概して温暖な気候で四季が巡る。その季節の循環に合わせて種をまいて、時間をかけて、収穫を得る。そして、その収穫の一部を次の年の種にする。これに対し狩猟民族は森に入り、獲物がいれば討ち取り収穫にする。動物がいない時、討ち取りに失敗した時は出直して次の機会を狙う。

種を蒔いて時間をかけて育て収穫するというのはまさに投資の世界です。一方、狩猟は比較的短期の値上がりを目指す投機的手法です。

日本文化は「和」というコンセプトを非常に重視します。「和」という言葉には二つの意味があります。一つは「加える」という意味、もう一つが「調和」という意味です。つまり、「和」には「多種多様なものを受け入れながら全体の調和を保つ」という意味が込められているように思うのです。まさに十七条の憲法の「和を以って尊しとなす」です。

この考えは十分に分散されたポートフォリオにあてはまります。異なったビジネス、異なった株価の動きをする銘柄を組み合わせつつ調和のとれたポートフォリオを保有する。これは分散によりリスクとリターンの関係を最適化するという資産運用の一番重要な考えに通じるものがあるのです。

● 貨幣経済が普及した江戸時代のお金のコンセプト

「知足」という言葉があります。京都の龍安寺の庭の手水鉢に「吾唯知足(われただ足るを知る)」と書かれているのをご存じの方も多いでしょう。投資でも知足の考えは大切です。決して欲張って儲けようとしない。世界の経済はゆっくりと成長し、それに合わせて民間企業の価値もゆっくりと増えています。それ以上の投資収益を求めようというのは知足の思想に反します。

江戸時代の商家が大切にした思想に「分限」という考え方があります。分限とは「身のほど」の意味で、さらに分限を守る人が成功することから金持ちを意味するようにもなっています。世界の民間企業が生み出す付加価値は投資家にリターンとして分配されます。個々人が出資している「分」を限度としてそれを受け取る。これがファンダメンタル・リターンです。価値の増加以上のリターンは株価の値上がりによる投機的リターンの奪い合いです。価値の増加を限度として着実に利益を積み上げるのが長期投資の基本です。

日本で大切にされている考え方に「もったいない」があります。世の中の富はみんなのものです。それをムダにしてはいけない。資源・環境問題が深刻な今日、大切な思想です。ケニア出身の環境保護活動家、ワンガリ・マータイさんが「Mottainai」として広め、世界的に注目されている考え方です。人生を通じての資産運用で大切なことはムダを省くことです。投資信託はなくてはならない投資対象ですが、関係者が多いのでコストが高くなりがちです。また、株式などの無駄な売買は手数料で大切な資産が流出します。税金も非課税制度を利用することで無駄な資金流出を防ぐことができます。

● 西鶴と尊徳のおススメは長期投資!

井原西鶴に「日本永代蔵」という本があります。彼が生きた江戸中期のビジネスの世界が生き生きと描かれています。「永代」というのは「時間的な制約がない」こと、「蔵」は財産を入れて置く場所です。つまり、永代蔵は長期的な資産を増やしたり失ったりする話が生き生きと書かれているのです。現代的には「永代蔵」は人生を通じて、さらに、世代を超えた長期資産です。一貫して流れる思想は少しずつ時間をかけて儲けるという考え方です。

長期に成功するにはその企業が世の中の役に立っていなければなりません。有名な近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の思想はそれを言っています。この「世間よし」は今投資の世界で注目されているESG(環境・社会・企業統治)やSDGsに通じるものです。つまり、社会の役に立つ三方よしの企業を長期間保有し、少しずつ時間をかけて大きく儲けるのが運用の成功の秘訣です。

二宮尊徳の言葉の中で私が特に好きな言葉は「勤倹譲」です。「勤」は勤勉の勤。一生懸命に働くということです。プロとして本当に世の中のためになる仕事をし、みんなから感謝され感謝のしるしの報酬を得る。そして最大限の倹約をする。これが「倹」です。そうすると自然に資産が貯まります。それを「譲」、譲るのです。

尊徳はこの「譲」を「自譲」と「他譲」に分けています。つまり、将来の自分に譲る、そして、世の中のため、困っている人のために譲るのです。今日的には投資と寄付です。これはマックス・ヴェーバーの「天職に励め、できる限り節約せよ、できる限り他に与えよ、そして天国に宝を積め」という考え方と似ています。それに自譲という概念まで入れているのです。ヴェーバーよりも100年近く前に生きた尊徳がこれを述べているのは驚くべきことです。

二宮尊徳に「積小為大」という言葉があります。「少額を積み立てて大きな財産をなす」というのはまさに積立投資そのものです。コストの低いグローバルな株式インデックス・ファンドを対象に一定の金額を、価格が値上がりしているときも、値下がりしているときもひたすら続ける。これが成功の秘訣です。

私は素人なので日本文化については異なる解釈もあるのかも知れませんが、直感的に和風の心情は長期投資に非常に向いているという点については確信を持っています。