【Vol.229】FIWA代表理事リレー投稿 「富と欲と幸福についての永遠の教訓」

寄稿: FIWA®協会 副理事長 原田 武嗣

FIWA®協会 副理事長 原田 武嗣

「富と欲と幸福についての永遠の教訓」は、モーガン・ハウゼル著「お金の心理学」₍注1₎のサブタイトルです。私が昨年読んだ本の中で一冊の本を選ぶとすれば、躊躇なくこの本を選びます。

 本のタイトルからは、行動ファイナンスの専門書みたいですが、サブタイトルを読むと、ごく普通の人が自分の人生を歩んでいく上で、何か参考になる話が書いてあるのかしら、と興味をそそられませんか?そう、この本は金融の専門家もごく普通の生活者も含めて全ての人々が、お金とより良い関係を築き、お金に関するより賢明な決断をするための方法を20の実行可能な教訓として提示してくれる人生の実践本です。

 この本の「はじめに 地上最大のショー」の中で、著者は興味深い二人の人物の逸話を紹介しています。一人は、金融業界で大成功を収め、40代で引退して慈善家になったリチャード・ファスコン。彼は、その後、2008年の金融危機で破産宣告を受け、まず、パームビーチの別荘を差し押さえられ、2014年には自宅豪邸も差し押さえられました。もう一人は、同じ2014年に92歳で亡くなり、地味な清掃員から慈善家になったロナルド・リードです。彼は、わずかなお金を貯めては、優良株に投資して、何十年も持ち続け、わずかな貯金が10億円近くの資産になりました。それだけです。そして、彼は遺言により清掃員から慈善家になりました。リチャード・ファスコンは貧欲でしたが、ロナルド・リードは辛抱強かったのです。ロナルドのようになれ、リチャードのようになるなというのがこの逸話の教訓です。「大学の学位もなく、訓練も受けず、経歴もなく、正式な経験もなく、コネもない人が、最高の教育、最高の訓練、最高のコネを持つ人を大きく凌駕する業界は他にあるでしょうか?思い当たる節がない。・・・(中略)・・・しかし、投資の世界では、このような話はよくあることである。」と著者は指摘します。その理由として、(1)金融の成果は知性や努力とは無関係に運によることがある程度真実であることと、(2)(より一般的だと思われるが)、経済的な成功はハードサイエンスではなく、ソフトスキルであり、何を知っているかよりも、どう行動するかが重要であることを著者は指摘します。このソフトスキルを「お金の心理学」と著者は呼んでいます。そして、以下のように「はじめに」に続く20章で著者が考える「お金の心理学」の最も重要で、しばしば直感に反する特徴を説明しています。

1章 誰もクレイジーではない

お金に関するあなたの個人的な経験は、世の中で起きていることの0.00000001%程度ですが、あなたが世の中をどのように考えているかの80%程度を占めていると思います。

2章 運とリスク

何事も見かけによらず、良いことも悪いこともあるものです。

3章 決して十分ではない

お金持ちがおかしなことをするとき

4章 複合的な複利計算 (Confounding Compounding)

ウォーレン・バフェットの845億ドルの純資産のうち、815億ドルは65歳の誕生日以降に得たものである。私たちの頭は、このような不条理を処理できるようにはできていない。

5章 富を得ることと富を維持すること

 良い投資とは、必ずしも良い決断をすることではありません。一貫して失敗しないことである。

6章 ロングテール

半分くらい間違えても、大儲けできる。

7章 自由

時間をコントロールすることは、お金から得られる最も高い配当です。

8章 マン・イン・ザ・カー パラドックス

  あなたほど、あなたの持ち物に感心する人はいない。

9章  富とは目に見えないもの

自分がどれだけお金を持っているかを人に見せるためにお金を使うことは、お金を少なくする最も早い方法である。

10章 お金を貯める

あなたがコントロールできる唯一の要素が、重要なことの一つを生み出している。なんと素晴らしいことでしょう。

11章 リーゾナブル >ラショナル

冷徹に合理的であろうとするよりも、ほぼ合理的であろうとする方が効果的である。

13章 エラーの余地

すべての計画で最も重要なのは、計画が計画通りに進まない場合の計画です。

14章 あなたは変わる

長期計画は案外難しいものです。なぜなら、人の目標や願望は時間とともに変化していくからです。

15章 タダなものはない

  すべてのものに値段がついていますが、すべての値段がラベルに表示されているわけではありません。

16章 あなたと私

自分とは違うゲームをしている人から金銭的なヒントを得ることに注意する。

17章 悲観主義の誘惑

楽観論は売り込みのように聞こえる。悲観論は、誰かがあなたを助けようとしているように聞こえます。

18章  何でも信じてしまうとき

魅力的なフィクション、そしてなぜストーリーは統計よりも強力なのか。

19章 さあ、全体のまとめ

  自分のお金に関する心理を知ることができたこと。

20章 告白

  自分のお金に関する心理

繰り返しになりますが、この本は、単なる知識本ではなく、お金とより良い関係を築き、お金に関するより賢明な決断をするための方法を20の実行可能な教訓として提示してくれる人生の実践本です。

「生活者が経済学束縛から解放され豊かで幸せな人生を実現」(注2)ための知恵が詰まっています。興味を持たれた方は是非読んでみてください。

(注1)“The Psychology of Money  TIMELESS LESSONS ON WEALTH,GREED,AND HAPPYINESS”,MORGAN HOUSEL, 「サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット」モーガン・ハウセル(著/文)、児嶋 修(翻訳)として、邦訳が2021年12月に刊行されている。 

(注2)特定非営利活動法人「みんなのお金のアドバイザー協会~FIWA」

ビジョン:当協会は、生活者が経済的束縛から解放され豊かで幸せな人生を実現できるための支援活動を行います

生活者のためのミッション:人生を通じてのお金との正しい付き合い方の知識を普及し、自ら合理的・効果的な資産運用を実行し、また、アドバイザーとの効果的・生産的な関係を構築できるよう啓蒙活動を行います

アドバイザーのためのミッション:生活者のためのライフプラン、金銭、投資、資産運用等に関するアドバイスが完全に利益相反のない形で行われ、当協会の理念に基づき行動するお金のアドバイザーを育成、認定、支援する