【Vol.277】エクスパート・オピニオン 

尾藤峰男氏 オピニオン

尾藤 峰男氏 CFA , CFP , RIA


私の長い間の友人、尾藤峰男さんが『日銀保有ETFの「100年売却方針」がはらむ5つの深刻な問題』という非常に内容のある良いエッセーを発表されています。

尾藤さんはグローバル・スタンダードの米国証券アナリスト資格「CFA」と、FPの最上位国際資格「CFP」をもつ公認投資助言者(RIA)の資格を持っています。しかも、証券会社を中途退社して図書館にこもり猛勉強、上記の資格もすべて一発最短で合格している勉強家です。しかも決して理論だけでなく、長い海外経験も踏まえ非常に納得性のある議論を発表しています。

彼の最新のメルマガ(2025.12.22)は「日銀保有ETFの「100年売却方針」がはらむ5つの深刻な問題」というタイムリーなテーマで問題提起をしています。比較的短期的な業界寄りの視野ではなく、文字通り100年という期間に基づくコメントです。首相官邸の目安箱にも提出したそうです。株式というものの本質を知る上でも貴重なご意見です。ぜひ、お読みください。(岡本)

日銀保有ETFの「100年売却方針」がはらむ5つの深刻な問題

日銀が保有する時価83兆円の日本株ETFを100年かけて売却するという方針は、問題の本質的解決を放棄した愚策と言わざるを得ません。以下、看過できない5つの重大な問題点を指摘します。

□ 巨額の信託報酬という国民負担

ETFには信託報酬が付いて回ります。仮に年率0.1%として、83兆円を平均50年保有すれば、4兆1500億円もの報酬が発生します。これは株価横ばいの前提ですから、株価が5倍になれば報酬負担も5倍です。これは、証券会社、運用会社、信託銀行にとっては、とてつもない収益源になります。あまりにいい収益源なので、受け取る側は、だんまりを続けるでしょう。また、メディアも、これらの機関が大事なスポンサーなので、だんまりを決め込んでいる印象があります。原株で保有すればゼロのコストを、わざわざ国民負担で支払い続けるのは、まったくの無駄遣いです。

□ 永続的な売り圧力による市場機能の破壊

100年にわたる売却は、株式市場全体に常に見えない(ステルス)売り圧力が掛かり続けることを意味します。本来の需給バランスによる適正な価格形成が阻害され、市場メカニズムが長期間歪められます。孫、子、ひ孫の世代まで、この悪影響を引きずるのです。まさに、「今がよければ、しわ寄せは後に」を、地で行くようなものです。今の大人世代の発想が、もともとそういうものだという感があります。今の子供世代が、大人になって、何とバカなことをしてくれたのかと嘆くことでしょう。

□ 株主権の空洞化という致命的欠陥

最も深刻なのは、ETFでは日銀に議決権がなく、運用会社が株主権を行使するところにあります。運用会社が、自分たちはきちんとやっていると言いますが、それは表向き。83兆円分の議決権を実質的に行使することは期待できません。本来は、日本株時価総額の7%を保有する日銀の意向を聴くべきものです。つまり、日本の株式市場全体に株主の空洞化が起き、コーポレートガバナンスが機能不全に陥ります。それも100年にわたって!!これは日本の資本市場の根幹を揺るがす問題です。そもそも、日銀が株主権を行使しないということであれば、通貨の番人である日銀は本来株式に投資する機能はなく、もともと日本株(ETF)を買ってはいけなかったのです。何と愚かなことをしたものでしょう。

□ 問題解決の先送りという無責任

100年という期間設定は、実質的に「解決しない」という宣言に等しいものです。現世代の政策判断の失敗を、何世代も先まで押し付ける無責任な態度であり、時間が経つほど選択肢は狭まり、問題はより深刻化します。まさに日銀総裁がいみじくも言いましたが、「100年経つ頃には、今の人は誰もいない」のです。だから、「野となれ、山となれ」というのでしょうか。しかしながら、後の世代は、しっかりと存在します。その人たちが負の遺産を抱えるのです。まさに、旧軍部が犯したような過ちに相当します。

□ 本来取るべき解決策の放棄

GPIFがETFを原株に転換して引き継ぐ、あるいは国民に広く分配するなど、実態を伴った解決策は存在します。にもかかわらず、「手に余る」として当たり障りのない先延ばし策を選ぶのは、政策当局の思考停止です。
日銀ETF問題は、異次元緩和の負の遺産として正面から向き合うべき課題です。100年売却方針は、日本の株式市場を永遠にダメにしかねない愚行であり、一刻も早い方針転換が求められます。

尾藤峰男氏 公認投資助言者(RIA)プロフィール

びとうファイナンシャルサービス株式会社 代表取締役
投資助言・代理業登録-関東財務局(金商)第905号
「米国CFA協会認定証券アナリスト」「CFP」「日本証券アナリスト協会認定アナリスト」「1級FP技能士」の4つの最高難度の資格を持つ。
金融機関と全く関係がない資産運用アドバイザーとして、投資助言料のみで個人の金融資産や退職金の運用助言・ライフプランニングサービスを提供する。グローバルな投資理論や外国株投資・国際分散投資に精通。日本経済新聞、週刊東洋経済、週刊エコノミスト、ダイヤモンドなどへ寄稿・コメント多数。日経CNBC、テレビ東京などにも登場。著書に「いまこそ始めよう 外国株投資入門」「バフェットの非常識な株主総会」。