【Vol.267】サムライズ勉強会講演より(講演1)
2025年の世界経済・市場展望 ~世界株価は、米国発の波乱を潜り抜けて、長期上昇基調へ
ブーケ・ド・フルーレット代表
CFA協会認定証券アナリスト 馬渕 治好氏
レポーター:赤堀 薫里
馬渕 治好氏 プロフィール
1958年 東京都生まれ
主な学歴:
1981年 東京大学理学部数学科卒業
1988年 米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了
主な職歴:
1981年に(旧)日興証券入社。ほとんどの期間、日興グループ各社の調査関連諸部門を歴任。2009年1月より、独立して経済・市場分析業務を営む。
種々の活動:
テレビ・ラジオ出演や、雑誌・電子ニュース等への寄稿も数多い。講演活動も活発に行なっている。
最近のマスコミへの登場例(順不同、一部のみ):ストックボイス、日経CNBC、BSテレビ東京、ラジオNIKKEI、日本経済新聞、東洋経済オンライン、時事通信
書籍執筆は、「時事問題とマーケットの深い関係」(2015年、金融財政事情研究会)、「勝率9割の投資セオリーは存在するか」(2016年、東洋経済新報社)、「投資の鉄人」(共著)(2017年、日本経済新聞出版)、「投資のプロはこうして先を読む」(2018年、日本経済新聞出版)、「コロナ後を生き抜く 通説に惑わされない投資と思考法」(2020年、金融財政事情研究会)など。
今年の前半でも比較的早いうち、アメリカ発の波乱が生じるだろうと思っています。アメリカの経済が現状に比べて悪くなると、アメリカの株が下がり、米ドルも下がるので、日本株だけでなく他の多くの国の株価も巻き込まれるだろうと思います。
ただ、そういった波乱が生じたとしても、リーマンショックやコロナショックがまた来るというような深刻な事態は想定していません。その波乱は比較的浅く、市場波乱をくぐり抜け、長期的には世界経済が拡大をして、世界の株価は上がっていくため、長期上昇基調に入っていくだろうという考え方が今日の結論です。やはり当面の市場波乱はアメリカから始まると考えています。
アメリカ経済が今より悪化すると思っていますが、それが深刻なのではなく、今のアメリカの株価があまりにも楽観的すぎるため、楽観的すぎるマーケットが普通になるだけでも、株価は下がると思っています。理由としては、マスコミなどで報じられる場況を見ていると、少し前までのアメリカの株式市場においては「景気はいい。景気はちっとも悪くならない。景気が良ければ企業収益は伸びる、だから株価は上がっていい」と言っているのと同時に、「金利は大きく低下する。インフレはそれほど心配ない。連銀はどんどん利下げをするから金利は大きく低下する。」と言っていますが、この2つは両立しません。
景気が良ければ金利は上がるはずです。金利が大きく下がる局面は景気が悪い時なので、同時に成立することはほとんどあり得ないのにそれが成立すると叫びながら買われてきました。ただバブルとは思っていません。足元では金利側、「本当に金利が大きく低下しますか?しないじゃないですか。」という方から楽観が崩れ始めています。
そのきっかけになったのがやはりトランプさんの大統領再選です。関税を上げるというところが非常に注目されていますが、関税を上げることはかなりありそうだと思います。関税を上げると輸入品の値段が上がるため、景気は良くもないのに値段だけ上がります。企業が払うコストも、家計が払うコストも上がってしまう。
しかし、別に関税を課したからといって景気が良くなるわけではありません。そういった状況でいわゆる悪い金利上昇。インフレになってしまい、金利ばかり上がります。景気がそれほど良くならないからといって、金利が当初期待したようにどんどん低下するなどと過度な金利先安期待を抱くのは、怪しいよ(おそらく金利はそんなに下がらないよ)、という形で崩れ始めています。
ナスダックはそうでもないのですが、ニューヨークダウが昨年から調整を深めています。僕はこの先、景気がいいという方もひっくり返ると思います。すると、今度は景気が悪いのだから金利が下がるということになるので、金利が下がらないという悲観論の方が薄れる一方で、景気の方から今度楽観の方が崩れてくると思っています。普通の景気の動きよりも先に動く先行指標がいくつか悪くなっているので、それが響いてくるのではないかなと考えています。
金利が低下しないという方向で株の楽観論が崩れる場合は、株が下がる中でドルが買われることはちょっとおかしいとは思います。金利が上がるのであれば、アメリカで金利が思ったほど下がらないのだから、金利面からいって米ドルを買ってもいい!ということになり、足元ではアメリカの株価が変調をきたしながらも米ドルが上がって、米ドル高円安になるということが起こっているわけです。
すると、日本株については、アメリカの株がちょっとおかしいから売らなきゃいけないと考え、米ドル高円安だから輸出企業の株を買ってもいいという楽観と悲観が攻め合いますが、もし私が見込んでいるように、今度金利側ではなく、景気側からアメリカの株は危ないという話になると、今度は景気が悪くて金利が下がるという方向にアメリカが走るので、金利が下がって、日米金利差が縮むのであれば、米ドル安、円高になると考えています。
そうするとここから先の局面は米株も下がるし、米ドル安、円高にもなります。そうなると、日本株が巻き込まれずに上がることは、多分難しいのではないかと思っています。そうはいっても、アメリカの景気悪化とか、それが起こす波乱は深刻とは言えません。一番経済面で恐ろしいのは、景気が悪化しているのに、打つ手がないことです。しかし連銀は最近ちょっとだけ利下げをしていますが、その前に5%を超えるところまで政策金利を十分引き上げているので、利下げの余地があります。また、お金の量も今、量的引き締めという資金を吸い上げるということをしているので、それをまた巻き直す。
供給する資金を増やすという手もできます。つまり打つ手があるので、それほど深刻なことにはならないだろうと思っています。主要なインデックスで10~20%ぐらいの調整というのを見ています。でも20%は大きい、世界は終わりだとか騒ぐ人もいますが、打つ手があるのでそこまで下げないかもしれない。だから下落を欲張る姿勢は危険だと思います。株価の下落は欲張らずに下がったら買う。下がらなくても諦めて買う。今年の後半の株価は、去年よりは高くなると思っているので、買ってから下がった場合はそのまま放っておけばいい、ということでいいでしょう。
アナリストたちが作っている日本の企業収益の予想は下方修正されていますが、増益基調がひっくり返ることではありません。また、実はアメリカの株価は楽観的ですけど、PERなどの指標で見るとアメリカはどう考えても割高です。それが崩れる恐れはあります。ただ、日本株については、PERで見た割高感はほとんどありません。ですから、アメリカ発の市場波乱に巻き込まれるとは思うものの、それほどひどいことにも関わらないと言います。政治情勢は重しですね。
講演では日本株が世界株を上回る上昇を遂げられるカギや、主要市場の見通し、中国と欧州、インドの今後の見通しについて、データを基にわかりやすく解説くださいました。
(文責 FIWA)