【Vol.265】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)

『投資信託事情」が見てきた投信業界65年

 島田 知保(しまだ・ちほ)氏
NPO法人 みんなのお金のアドバイザー協会~FIWAレポーター:赤堀 薫里


プロフィール
Shimada
島田 知保 氏
  • ×モーニングスター・ジャパン㈱「投資信託事情(JITRI)」チーフ・エディター
  • 2012年金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」
  • 2017年同「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」
  • 2016年より同「市場ワーキング・グループ」(いわゆる「老後2000万円問題」報告書)委員
  • 2022年より同「顧客本位タスクフォース」メンバー
  • 国際基督教大学卒。食品会社、宇宙科学研究所(現JAXA-ISAS)、衆議院議員秘書を経て1995年より投資
  • 信託の専門誌「投資信託事情」(1959年発刊、2024年4月号にて休刊)発行人・編集長。2008年、事業譲渡によりイボットソン・アソシエイツ・ジャパンに移り現在に至る(2024年1月イボットソン会社分割によりモーニングスター・ジャパン株式会社にて活動開始)。


プロ向け、一般向けを問わず、1990年代から一貫して長期・積み立て・分散投資やESG・社会的責任投資をテーマに活動。投資信託における問題と課題が主にその販売会社と運用会社の出自にあることを指摘し、資産運用業の自立と投資家に寄り添うことを提言し続けた。幸せ作りの道具として、お金や金融商品と「あんしん」して付き合うことを提案し、イボットソンのモットーである長期・分散投資にさらに若年層に向けて積み立て投資を啓蒙してきた。近年は投信のコスト低下、インターネット販売の定着、つみたてNISAや確定拠出年金の拡大など、一定の成果が果たされたと感じている。
× 個人投資家の交流会「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ(東京)」共同幹事、「個人投資家が選ぶ!(旧投信ブロガーが選ぶ!)Fund of the Year」運営委員など、投資リテラシー向上のために個人投資家に向けた任意の活動も行っている。


投資信託がどのように出来上がったのかは、今の投資信託をかなり運命づけているところがあると歴史から分かっています。また、投資信託が主役なのではなくて、投資信託を使う人たちが本来は主役であるべきなのに、その主役が不在だったという、皮肉な部分についてもお話をしていけたらと思っています。投資信託は、「いい投資対象があるからこれを証券化してみんなに持ってもらえば、みんなのリターンも高くなるよね」というような考え方で作られてきたものでは残念ながらなかったわけです。

戦後の投資信託の始まりは、財閥解体で放出されるたくさんの株式を誰に持ってもらえばいいだろうとなった時に、「そうだ、証券化して投資信託にしてたくさんの国民に持ってもらえばいいんじゃないの」という考えからでした。また、日本の国債を銀行や保険の会社がもう持ちたくないといった時期がありました。今まで安定して国債を引き受けてくれていた銀行や保険が持ってくれないとなると、どうしたらいいんだ。これもまた、「証券化して投資信託にして国民に持ってもらえばいいじゃないか」ということになります。

例えば日本の企業が株式の持ち合いをしていますが、これでは時価評価も難しく、グローバルなスタンダードの中では非常にまずい。日本が国際金融の中心地となったときに持ち合いの株式をどうするか、時価評価するにはどうしたらいいかと考えたときに、ここで上場投資信託ETFができるわけです。バブルが崩壊してデベロッパーがあらかじめ自分たちがリスクを取って物件をデベロップしていくことが苦しくなってきたときに、それでもやはり不動産をきちんと建てていかないと街が荒れてしまう。どうしましょうか。すると、ゆっくり不動産の流動化の受け皿としてリート(REIT)が生まれてくる。あるいはまさに現在ですが、新興企業に対してお金を回していき、どんどん新しい産業を育てていきたいときに、今度は新しい企業の未上場株も投資信託にして買ってもらえばいいんじゃないの、というようなことになってくる。

つまり、国民のお財布が、常にドラえもんのポケットのように思われて、投資信託を作ってきます。何かみんなに持ってもらわないといけない。投資先が余ってしまっていると、「助けてドラえもん」と言って投資信託にしてポケットに政府が手を突っ込んでくる。そういったツールとして投資信託がうまく使われていたということもあります。もちろん「市場の正常化であるとか、支援。あるいは育てていくために皆さんのお金を使いますよ。」という形ではあるわけですけど、どうもダブついたものをみんな紙にして刻んで持ってもらうツールとしての発想というのはぬぐいされないものがあるようです。日本の投資信託はそのように国民のポケットからお金を取り出しやすくするためにできたわけです。

今はほとんど無くなってしまった単位型の投資信託は、もともと日本の投資信託の始まりでした。それは、今とまさに同じように「貯蓄から投資へ」みんなに投資をしてもらおうと、それまでの銀行の定期預金と似たものとして投資信託を作ります。定期預金と同じように期間2年とか3年、あるいは少し長くなってくると5年の単位型の投資信託として一本ずつ作っていく。そして分配金というのは、いわゆる預金の利息のようなもので、持っていればもらえるという形でなんとなくオブラートに包んで投資信託ができるわけです。これが投資信託のスタートです。これは非常に大きな禍根を残している部分があります。まさに投資信託の分配金というのは、利息のようなものであり、投資信託の分配金が分配金利回り、投信の利回りなどというように簡単に間違った言葉で表現されてしまうような形で今でも残っている部分があります。

それからもう一つ売りやすくするために、「これはいいですよ」というような商品に流行り廃りを作っていくこともあるわけです。これはつい最近まで非常に激しく流行り廃りがありました。例えば新興国の調子が非常に良い時にはBRICsなどという言葉をよく使われたと思います。中国がいいよ、インドがいいよ、ブラジルがいいよ、ベトナムがいいよと。毎月の分配型の投信も大流行しました。あるいはテーマがあります。IT、エコ、インフラ、ゲノム、ヘルシー、サイエンス、AI、宇宙。そして最近はコロナで皆さんが非常にリモートでやるようになった時にはサイバーセキュリティーというのも一時期流行りました。気候変動は折に触れて繰り返してくる流行でもあります。それから半導体が大騒ぎでもてはやされたり、新興国の同じ株式の小型株はどうだろうか?といったような商品ができてきたりするわけです。

講演では公募投資信託の現状と、日本の投資信託の歴史を紐解いて、純資産残高の推移と共にさまざまな投資信託誕生の背景や、変化を遂げる売れ筋投信について興味深い解説をしてくださいました。最後に、投資は自分の気持ちをコントロールすることが大切であり、売買のタイミングを選択すると、より悪い結果を招きがちになる。またコストの重要性も説かれました。

フリー・ディスカッション 

田村|投資信託の状況がかなり良くなったとおっしゃいましたが、僕もそうだと思います。ただ、例えば今プロダクト・ガバナンスとかいろいろ言われていますが、島田さん、岡本さんお二人から見て、ここから後の最大の問題だと思っているものや、特にここは変えてほしいということがあれば、お伺いしたいです。

島田|だいぶ良くなったところと、良くなっていないところと両方あると思います。最大の問題は、業界は手綱を緩めると必ずもとに戻るということだと思います。だから一つには使う側がもっともっとベーシックな知識を持っていくことが大事でしょう。もう一方でメディアも含めてトレンドに踊るのではなく、大事なことは常に押さえていくことがすごく重要だと思います。

岡本|基本的に、銘柄の配分を考えるのではなく、資産の配分を考えるということです。自分が持っている財産のうち、どれぐらいを株式にしたいか。そのうちどれぐらいを日本株にして、どれぐらいをアメリカ株にするのかというような配分で、トップダウンで降りていき、何を持つかということを決めるべきです。ボトムアップでこれ良さそうだなとか、あっちの方がいいとか、そういうことで決めていくと全体がぐちゃぐちゃになってしまう面があると思います。だからその辺はアドバイザーがよくガイドしてあげることが大事だと思います。

竹川|お二人とも大変素晴らしいお話ありがとうございました。島田さんに大きい質問です。運営会社と販売会社と個人、それぞれ課題と今後どういうあり方が求められているかということが知りたいです。というのが、運用会社に関しては、NISAがスタートして若干元に戻っているのではないかと感じております。

特にグループで販売会社を持っていないところは、自分たちで企画するというよりは、販売会社に売ってもらう商品はどういうものかとか、どうしたらNISAの枠に入れてもらえるのかということで、何となく商品の設計を考えている部分が多い。また外部委託の商品企画をしたけれど、グループ内の運用会社に取られてしまったという話があるので若干元に戻っているのではないのか、というのが一つ。

販売会社に関してもやはり売り方です。セミナーを聞いた時に、運用会社さんのロールプレイングが、隔月分配の売り方が従来通りの「年金がない月にもらえますよ」みたいな、販売会社さんがお客さんにどういうかみたいなロールプレイングをやらされていたので、ちょっと昔に戻っているところがあるかなと思いました。

また、個人に関しては最近オルカンか、S&Pかみたいなところでいきなり商品から入ってしまい、投資信託の基本的な知識がない人がむしろ増えているような気もします。また個人が見られるウェブサイトがどんどんなくなっていっているところがあるので、良質な情報を個人がどのように得て、どのように勉強していったらいいのかというあたりも含めてお伺いできればと思います。

島田|先ほど田村さんに申し上げたことと同じで、手綱を緩めると必ず元に戻るということを本当に私も感じているところです。そこで課題はどうするのか。彼らはどうするのかといっても、あまり性根は変わらないのではないかと正直感じております。特にコストを削らなくてはならない。安い商品を作らなくてはならない。回転売買ができないなど、どんどん手足を縛られていくと投資信託だけに限って言うと、利益がどんどん薄利になっていっている中ではなかなか難しいと思います。

この傾向があまり行ってしまうと、ちょっと前の外貨建ての保険や仕組債のように、別のところが出っ張ってくるだけの話だと思います。だから本来であれば制度の方でやるべきです。商品オーダー的な販売者のためのルールは絶対必要だと思っています。個別の商品でルールを作っていても絶対ダメだろうなと思っています。個人でいうと、私もすごく心配しているのは、かつてはブロガーさんが一つの情報提供の中立とは言わないけれど投資家寄りのいろいろな情報発信をしてくれて、みんな読んでいました。

しかし、このごろはビデオや動画になっていますよね。ビデオや動画が非常に玉石混交だなというのが私の印象です。ここも情報の提供の仕方としてもっと考えなくてはいけないなと思います。個人の方に一番伝えたいことは、正解が一個だけあって、それをやっていればいいという話ではない。最初に来る質問が、「それではオルカンを買っておけばいいですか?」という話になってしまいます。そうではなくて、「何のためにどれくらいのお金をどうやりたいのか?」ということが抜けてしまっている。家を建てるのにカーテンの色から決めるという状態になってしまっていると思います。そこはそうではないということを我々はもっと言っていかないといけないとは思っています。

竹川|本来であれば、投資信託はNISAも広がってきたし、iDeCoの拡充も言われていて、ここからは良質な情報が広がっていけばいいなと思いつつ、どんどん専門誌もなくなっていき、ウェブも見られる情報が少なくなっているので、どうしていけばいいのかちょっと悩んでいる部分がありました。

岡本|私も今、病院で看護師さんや、リハビリの若い先生に、「積立NISAをやっているの?」と質問すると、「聞いたことはあります。」と答える人はいい方で、全然知らない人がほとんどです。全くそういうものに興味があるのかないのかもわからない。世の中はすごい積立NISAのブームで、ものすごく増えていると騒いでいますが、実際、生活者全部を見た時は、本当にわずかな人たちが騒いでいるだけじゃないのかなという感じがします。私は来年からやろうとしていることは、日本の1億人近いの生活者の人たちが1ミリずつ投資の知識を持ってもらう。でも、それが何千万人かいれば、それなりの大きさにはなるわけです。やはりそういうことが必要だと思います。本当に第一歩のところ、「株と債券ってどう違う?」それさえも難しすぎるかもしれない。でも90年代の初め、厚生年金基金の常務理事なんかと話しをしてもその違いを知らない人がたくさんいました。ようやくそういうことが分かるようになってきたというのは一歩なんです。それが個人のレベルになったらどこまで浸透しているかというと、まだまだだという感じがしますよね。

参加者|ETFが最近すごく活況があるというか、アクティブETFなんかも出てきて、私自身がそちらに注目をしていたところなんですが、意外と過去はETFの方が多かったということに非常に驚きました。ただちょっとややこしいところがまだあると思っています。例えば同じ指数のインデックスファンドであっても配当込みのものと、その指数だけに連動しますみたいなものが、目論見書を細かく見ないとわからない。また総費用も、最後のほうの目論見書を見ていくと、ちゃんと総費用と書いてあるところもあれば、そういうことは書いてなくて、最後にいろんな費用があるけれどいくら掛かるか分かりません、みたいなことが書いてあります。その辺の統一感というか、もっと一般の方にもその違いが分かりやすいような議論は、まだなされてないんでしょうか。

島田|総経費率については、もう少し良くなってくるとは思います。現状でいうと特にファンド・オブ・ファンズでは、組み入れ比率によって変わるので予め書きませんというのがまだまだ一般的です。探さないと見えないようなものが中にはありますよね。ETFやインデックスファンドの使っている指数が配当金込みかどうかということは、最初から問題になっていることです。わざわざ配当込みでない指数でやっていることが本来であれば問題外ということです。ですから今の段階では、ちゃんとそういうことが書いていないものは選択肢から外してしまってもいいと私は正直思っています。

それからETFが活況になってきているというように見えるのもこれも業界側の原因があります。指数を提供する会社がありますよね。S&PやMSCIとか。いわゆる市場指数というのはほとんど出揃っていて、コモディティー化しています。指数会社はもう少し高く売れる指数はないのかと考えるわけです。そうすると当然のことながら配当株の指数を作ってみようとか、アクティブの指数を作ってみようとなってきて、アクティブインデックスみたいなものが随分出てきています。

さらには単なるアクティブ投信というものもあります。これにもいいところと悪いところがあります。例えば半導体がすごく流行ったとか、またはインドの小型株が流行っているというと、指数はどこかが作るので、ミラーですくにETFもできます。そういう意味ではより安いものになっていくという、スパンは早くなっている気がします。

岡本|総経費率といえば田村さんが何回か日経にも書かれていますけれども、ご意見ありますか。

田村|運用報告書で開示されていたものが目論見書でも開示されるようになってよいと思いますが、積立NISAはインデックス投信でも信託報酬が安いものだけ金融庁が選んでくれていますが、総経費率を見ると、信託報酬の10何倍のものが積立NISAのインデックスでもあるんですね。だから積立NISAだから安心というわけではなくて積立NISAでも投資家の人は、総経費率を一応見ておいた方がいいという感じがします。

岡本|アメリカなんかじゃ、それが最も重要な指数になっているわけですからね。やっぱり、一部分だけ教えてもらってもしょうがないですね。多くの問題が浮き上がってきますね。今日もありがとうございました。