【Vol.274】FIWAサムライズ勉強会より
将来に備える 賢い資産づくり
井出 真吾(いで しんご) 氏
ニッセイ基礎研究所 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト
「人生GDP」。GDPは国や地域の経済規模のことを指します。これを 1人1人の人間に置き換えて当てはめたものが人生GDPです。私が5~6年ほど前に作り出した言葉です。日々暮らしていると、いろいろお金に関わる情報が入ってきます。インフレ、年金、ガソリンの補助金等いろんな情報に接してその度に一喜一憂するわけですが、結局のところ人生トータルでいくらぐらいお金が入ってきて、いくらぐらい使うのか、これをまず把握しましょう。細かいところ、重箱の隅をつつきに行ってもいいんですけど、そもそも重箱の大きさはどのぐらいなのかを把握するところが1番大事なんじゃないかというのが私の基本的な考え方です。
人生において入ってくるお金は大きく分けて、労働収入・年金・貯蓄というか資産形成みたいなもの3つだと思っています。労働の部分はお手伝いできることはありませんが、年金を賢く受け取るだとか、資産形成のところで何か少しお手伝いできたらいいなと思っています。というのも昨今多くの人が資産形成をしなければと思い始めている。ではどのぐらい投資をしたらいいのか? 例えば何歳までにいくらぐらい貯めたらいいのか?結局いくらぐらいを目標に資産形成していったらいいのか?
決して「億り人」になる必要はありません。そんな高いリスクを取る必要は全然ないし、投資額が少なすぎるのもよくないです。日々の生活を削って友達と飲みに行くのもやめて投資にばかりお金を回す、そんなにつまらない生活を送る必要も全くないです。程よく投資をしてほしいということから「人生GDP」という考え方を私は使っています。
資産形成をすると、結局のところ自分のお金をどこにどういう形で置いておくのか。まさかタンスに置いておくという人はもう今の時代少ないと思いますが、日本人は預貯金が未だに大好きです。別に悪いことではないですけど、預貯金にしておくと恐らく今後もインフレに負けてしまいます。今、定期預金の金利は0.5%です。税引後だと0.4%ぐらいになります。例えばボーナス100万円を老後のために取っておこうと思い、定期預金に入れたとします。その100万円は30年後、利息合わせて113万円に増えて良かった。
ところが物価が1%ずつ上がっていった場合、今100万円で買えるものは 30年後は134万円になります。いや、30年後なんてそんな遠い話じゃない。今、100万円のものが10年後には110万円になります。政府日銀が目指しているのは物価2%です。足元の物価は3%近いです。もし2%で上がっていった場合、30年後は181万円になります。だから老後のためにと思って100万円置いといても全然足りてないということです。実際は60~70万円しか貯めていなかったということになりかねません。
こういう話をすると「井出さん金融機関だから金融商品買わせたいんでしょ!」という人がいますが、 僕は別に全員が投資をやらなければいけないとは思っていません。インフレに負けるリスクを承知の上で、覚悟の上で預貯金を置いておくことはありだと思います。僕が思うに預貯金も立派な金融商品ですから。元本割れはしないけれど利息が極めて小さいただの金融商品でしかありません。どの金融商品を選ぶか、それだけのことですし、皆さんの自由です。
ただ私の考えとしては日本も金利ある世界に戻ったとはいえ、まだまだとても低い。ですからまずは物価に負けない。資産形成というよりも資産防衛です。最低限の資産防衛。特にシニアの方。退職金でまとまったお金を受け取りましたという方は、まずこの資産をどうやって防衛するかということを少し考えていただきたい。
本当に今後もインフレが続くのかどうか。こればかりは確定したもの、保障されたものはありませんが、日本経済研究センターのまとめによると、2030年度まで平均で年率1.6%ぐらいのインフレが見込まれています。これは日本を代表するエコノミスト32名の予想を集めたものです。32人のうち高い予想を出した8人の平均で2%ぐらい。低い方の8人でも1.1%%。ざっと言うとこの先5年間1~2%のインフレは残りそうだよねと。
足元 は3%近いわけですから本当にこのぐらいで収まるかどうか不安にもなります。ただ、いずれにしてもデフレに戻る可能性は今の時点では低いと思うべきでしょう。昨日の日銀総裁の会見でも同じようなことをおっしゃっていました。とにかく物価に負けない。これをまず皆さんには意識していただきたいということ。
逆に言うと、これさえできれば資産は増やせないけれど、実質的に資産を守れるわけです。まとまった退職金を減らすことにはならないわけです。それはそれで非常に大事なことだと思っています。もしインフレよりも高い利回りを確保できれば、これは実質的に資産を増やすことができたということになります。私はこれを攻めの資産形成と呼んでいます。ではどのぐらい攻めるかは、人それぞれ。リスクが怖い人と怖くない人といますからね。
講演では、年金を「何歳から受け取るか」問題の真相について、また、攻めと守りの資産形成について説明。最後になぜ長期投資が必要なのか事例を基にリスクとの賢い付き合い方をわかりやすく解説いただきました。



