【Vol.260】FIWAマンスリー・セミナ講演より(講演1)
日本版インデックス革命の今後
NISA、新たなステージへ
三菱UFJ国際投信 常務取締役
代田 秀雄氏 講演
レポーター:赤堀 薫里
代田 秀雄氏 プロフィール
全国信託銀行従業員組合連合会書記長、三菱UFJ投信商品企画部長、三菱UFJ信託投資企画部長(三菱UFJトラスト投資工学研 究所取締役、MU投資顧問取締役いずれも兼務)、三菱UFJフィナンシャルグループ受託業務企画部部長等を経て、2015年から三菱UFJ 国際投信取締役。 2019年から現職。
オールカントリーというのは、日本株だけでなく、先進国、新興国も全部含めて投資可能な全世界の株式市場全体を対象にします。資産クラスのリスクとリターンと有効フロンティアを50年、100年という単位で考えないと対極的なものは出てきませんが、20年で見ると、縦軸がリターン、横軸がリスクのグラフでは、やはり米国株式のリターンが一番いい。先進国株オールカントリー、ここら辺が一つ、株の分散投資で個人の方が検討されるものです。20年取って米国株がいいので、今後も米国株が独り勝ちで続くと思うかどうかは個人差があります。米国株のS&P500など、先進国株に広く投資をする。または日本や新興国も入れてオールカントリーでもっと広く投資をする。こういったところがコアのポートフォリオの中心になると思っています。
eMAXIS SlimのS&P500を買っている方とオルカンを買っている方は、それぞれどのようにファンドを一緒に育てていくのか。ファンドのコミュニティみたいなことを我々は感じることがあります。米国株のS&P500に投資する方と、オルカンに投資する方と比べると、両方とも国内の投資信託では非常に保有期間が長く、解約率が低いのですが、少しだけS&P500に投資する方の方が、市場パフォーマンスに対する感応度が高いように思います。
オルカンに投資をする方は、論理的にオルカンに入っているので、全世界であるオールカントリーに投資をするのが一番合理的であり、どこかの市場が短期間で高い値段を出したということが中長期的でそれが続くかどうかはわからない。日本がいい時もあれば、アメリカがいい時もあるし、新興国がいい時もあるので、あまり値段が高い低いということを変に推測して、そこを当てにいくのではなくて、オールカントリーでいいんじゃないか、というような思想で投資をしている。
S&P500に投資をする方と比べると市場パフォーマンス感応度は低く、より長期投資の志向の方です。結局、S&P500やオルカンに投資をする、あるいは先進国株に投資をするものとどうポートフォリオを組むのか、ということです。極論するとトービンの分離定理みたいなものがあります。水とウイスキーで水割りができます。山崎と響があって、これがオールカントリーなり、S&P500だと思ってください。株の分散されたポートフォリオとします。それに水は定期預金でもいいと思います。定期預金は水のようなもの。お酒の強い人は水割りにしないで、お酒が弱い人は水の量を増やせばいいということです。効率的な分散投資という意味においては一定程度合理性があると思っています。
それで、今日の岡本さんの説明の中でジェレミー・シーゲルのグラフの中に、保有期間とリスクとリターンがありました。株の保有期間が株、債券を1年から30年だった時に、保有期間をどんどん長くしていくと株のリスクがどんどん下がり、30年では債券とリスクが同じになります。実はこれもその通りで、3~4年前に日本でもイボットソンの小松原さん達がファイナンス学会に日本でつみたてNISAが始まったので、多期間モデル的なアプローチをしています。マーコビッツの言っているモダン・ポートフォリオ・セオリーはある一時点の最適でしかないので、それを多期間化した時にどのような最適化になるかということをファイナンス学会で発表しました。
そこではある一定額を持ちきるという発想ではなくて、積立を毎月同額行う。例えば毎月3万円なら3万円ずっと買っていきます。そこで買い足していく分散投資というプロセスを考えたときに、株中心のポートフォリオと債券中心のポートフォリオが20年ぐらい経つと、ダウンサイドリスクはほぼ同じか逆転をしてくる。株中心のポートフォリオ、分散されてないと意味がないのですが、分散された株中心のポートフォリオ、S&P500なり、オールカントリーなり、先進国株でいいと思いますが、20年以上積み立てで買っていくと、債券を20年間積み立てで持ったポートフォリオよりもダウンサイドリスクが低減していく、という論文を発表しました。
ただし当時は、債券の期待リターンがほとんどゼロで試算されています。今は少し債券の期待リターンが上がってきたので若干データ分析に微修正が必要かもしれませんが、ほぼ20年超積立をしていくと、株だけのポートフォリオであってもそんなにリスクを過大に考える必要がないのではないかと私も思っています。ただ20年、30年間株を積み立てられる投資家であるということが前提になります。特に若い方にとってみれば、株中心のポートフォリオで、今オルカンやS&Pを積み立てている方の投資行動は極めてロジカルであると思っています。
講演では新しいNISAの歴史的意味と、日本版インデックスファンド革命に対する考察。インデックスだけではなくてアクティブファンドに求められるもの、そしてファンド選びよりも価値あるものについて興味深い解説をしてくださいました。
(文責FIWA®)
Free Discussion
参加者|現役層だと、今のNISAのブームでオルカンを勉強して選んで長期間運用というのはピンときますが、これから第二の人生を迎える人達がどういう感じでインデックスファンドを組み入れるのかというところを、何かデータなり、そういうモデルがあったらお聞きしたいと思います。
代田|実は若い方のNISA利用枠は、つみたて投資枠は年間120万円なので月10万円使えます。現役世代の方で、月10万円つみたて投資枠を使える方は、ほぼほぼいません。平均すると2~3万とかそのぐらいです。そうすると、このNISAの枠の成長投資枠で、インデックスファンドを買っている方は、実はかなりシニア層です。
最初インデックスファンドは若い方が中心でした。NISAのつみたて投資枠の投資対象はほぼインデックスファンドしか買えないということが、NISA制度の説明の過程の中で、いろんな金融機関はお客様にそう説明せざるを得ないわけです。それでインデックスファンドの存在を知り、シニア層の皆さんは、つみたて投資枠をインデックスで使うのであれば、成長投資枠もそれでいいのではないかと考えられた方がどんどん増えているという状況かなと思っています。
具体的なイメージとしては、31%程度はノーロードインデックス全体の割合なので、実はNISA枠の中でも、このシニア層が買っているアクティブファンドとインデックスファンドの割合がほぼほぼ変わらないか、インデックスファンドの方が今ちょっと多くなっているのではないかなというのが、業界全体のキャッシュフローを見ている今の状況です。投資信託マーケットにお金が入ってくるうちの半分以上がインデックスファンドという状況が続いています。ネットキャッシュフローの流入です。それはやはりスポットで一時的に買われるお金も相当入っています。半分ぐらいでしょうか。そうすると、シニアの方がかなり買っていると思っています。
岡本|シニアの方でインデックス型のものを買うということは、要するに、分散効果を狙うというより相場の見通しを強いと見ている人たちでしょうかね。
代田|私もいろんなところで発信をしていますが、今インデックスファンドを買われている方に20年30年持ってくれとまずお願いします。オルカンだって過去に半分になっています。日本の投信マーケットを60兆円だった頃に支えていたのは、シニアの方たちのお金です。60歳以上の方のお金が、ほぼ7~8割でした。これまでの投信の市場を支えていたのは、アクティブの外株にいっていて、そこは短期的な目線で買っている方もありました。そういう短期目線の方は、アクティブでずっとテーマものを追いかけたり、割安だからとか、今成長のトレンドが来ていると、興味、関心、知的好奇心で買われているという方もいます。それはそれでいいと思います。そうではなくて、60歳の方も80歳まで90歳までの人生、100年までの人生とまだその先があります。であれば、ほったらかしのオルカンを買っておいて、あとはさっきのトービンの分離定理じゃないですけど、必要なものは定期預金でおけばいいじゃないかみたいな方も結構多いのではないかと思います。
岡本|まさにトービンの分離定理に基づいて積立でやっているっていうことは、毎回、細かい買い付けをずっとやっているということですかね。キャッシュを一部持って残りを超効率的ポートフォリオにするとか、そういう発想で考えるのであれば、基本的には余裕資金は全部投資に回しているわけですよね。
代田|おっしゃる通りですが、結局、皆さんの立場のアドバイスで最も肝要なことは、どれぐらい投資に回せるかというところが多分一番の肝だと思います。お客さんがこれだけ運用したいかです。それを最適化するなんてことは、ある意味ではどうでもいい話で、それよりもお客さんの財産のうちこれだけ運用できるのではないですかというアドバイスの方が、実はずっと価値があることのように思いますね。
参加者|私が実際にお会いするようなお客様というのは本当に生活者層で、あまり関心がなかったけれど、最近NISAと言われているからということで、投資を始めたいという方達です。そういう方々に一番よく聞かれるのが「S&P500とオルカンがあるけれど、どっちがいい?」みたいな聞き方をされます。結局その中身というか投資対象を説明して、あとは自分でどう考えるか、とそこのあたりを説明します。今日のお話しですごく興味を持ってお聞きしたのが、オルカンとS&P500のコミュニティの特徴の違いという話です。そういう意味でオルカンの方がよく論理的に考えられた上で保有されているみたいなお話はすごく興味深く拝聴しました。もし、お客様に「オルカンとS&P500どっちがいいか?」みたいなことを聞かれた時にアドバイザーとして、こういうことも添えるといいみたいなことがあれば、お聞きできればと思います。
代田|サントリーの山崎と響きがありますよね。オルカンもS&P500も同じウイスキーです。山崎はシングルモルトなんです。山崎の蒸留所で作られたウイスキー。響きはブランディーとウイスキーということで、いくつかの蒸留所を混ぜています。オルカンは響みたいなもので、S&P500は山崎みたいなものです。一つの国かいろんな国を混ぜるか、これはどっちがいいか。
さっきコミュニティの話をしましたが、論理的にオルカンは考えているんですけど、S&P500はアメリカでたまたま上場しているけれど、アメリカの会社は全世界でビジネスをやっているから、全世界のビジネスに投資しているのと同じだよねとか、いろんなことを考えてS&P500に投資されているので好みです。ウイスキーのブランドの響を選ぶか、山崎を選ぶかの好み。私はどっちが間違っているとか、正しいということではないと思います。
岡本|両方持つというのはあんまり意味がないのではないですか。
代田|でも僕は両方買っちゃったんですけど(笑)。意味があるかどうかということもそうなんですが、これもあんまり深く考えるとわからなくなります。うちのリビングにはこの2つのウイスキーが置いてあるのと同じくらいかなと。そのくらいの気持ちで見ようとやってもいいのではないかなと思うんですけどね。
参加者|配当は信頼という話が岡本先生の方からあったんですけど、よく非常に知識レベルが高くて、世間の評価も文化人として高い方でも、今、日本の会社は配当を増やして労働者に利益を回さないというような話をよくされています。そこに私は違和感を持っていたので、今日、配当は信頼ということで少し納得がいきました。
岡本|やっぱり重要なことは、会社は出資者というか、株主が持っているということです。その株主のお金を企業が使って売上を上げる。その売上の一部が労働者にも分配されるという構図の中です。それで最終的に余った分が配当金でまた戻ってくる。そういう循環で考えれば、私は企業経営の最後の成績表というのは配当金じゃないかな、という気はしますけどね。今日もありがとうございました。
(文責FIWA®)