【Vol.243】FIWAマンスリー・セミナー講演より(講演2)

兜株価日本株価指数にみる現代の日本の立ち位置

講演 FIWA理事長
岡本 和久 CFA, FIWA
レポーター 赤堀 薫里

岡本和久20220623

昨年の8月に発表した兜日本株価指数から、今年に至るまでの145年間にわたる日本の株価指数のチャートを見ることで、背後にある歴史を学ぶことができます。

兜日本株価指数から学べることには主に4つのことがあるのではないのかと思います。
まず、第一にどうして株価は長期的になだらかな上昇しているのかということです。

このチャートは指数の値動きです。指数は定義上、多くの銘柄で構成され、分散されています。つまり分散効果が効いている。そして全体として見た企業の価値はゆったりと増加している。

第二は全体としての企業の価値は増加しているものの短期的には株価は、価値のトレンドの周辺で大きく動いているということです。これが長期チャートに見られる小さなギザギザで表わされています。大切なことはギザギザで儲けるのではなく、長期のトレンドで儲ける。売買ではなくて保有で儲けるということです。暴落の時は背中が寒くなるくらい恐いものなのですが、長期でみると一時的な下げでしかない。小さなギザギザで売ったり買ったり儲けようとするのではなくて、ずっと持っていれば、トレンドとしてはかなり大きな利益を得られます。

三番目は、時間を味方につけるということです。ここに出ている二本の線は上下で大きな乖離をしています。下の線は価格の指数、上の線は配当金を再投資した場合の値動きです。これらから、いかに複利の効果が非常に大きいかがわかります。やはり時間を味方につけ、配当金を再投資に回していくことのインパクトは大きいということがわかります。

四番目として株価指数の背後にある歴史を学ぶことができます。つまり長期的な世界や日本の状況を知ることで正しい投資判断が可能となります。今日はこの話を中心に行います。現在の立ち位置がどういうところにあって、非常に長期的な戦略を考えるうえで、何を前提にしたらいいのかがわかります。

Kabuto JSPI

長期の株価指数でわかることはいろいろあります。歴史的大事件を見ても明治維新以後の近代日本の構築、日清・日露戦争、第一次大戦、関東大震災、日中戦争、大平洋戦争、そして戦後の復興があり、オイルショックでやられて、バブルの発生と崩壊などがあったことは記憶に新しい方も多いでしょう

この長期チャートをよく見ていると戦前と戦後の形がよく似ていることに気付きます。なぜこのような似たパターンが生じるのかというと、私はライフサイクルが国にもあるのではないのかと考えます。個人にも製品にも企業にも産業にも国家にもライフサイクルが存在する。同じように国にもそれがあるのではないか。

ライフサイクルは、揺籃期(Pioneering Stage)成長期(Growth Stage)成熟期(Maturity Stage)衰退期(Decay stage)の4つと一般的には言われています。日本をたまたま戦前と戦後で分けてみると同じようなサイクルがある。戦前は明治維新から取引所ができ大日本帝国憲法ができ、国の形態が整ったまでが揺籃期、日清・日露戦争、第一次大戦ぐらいまでが成長期、その後、関東大震災や恐慌などもありましたが、少々、浮ついた都市文化も栄えた大正時代が成熟期、そして昭和になって統制経済から戦時体制へ、日中・太平洋戦争、そして敗戦の時代が成熟期だと考えられます。

一方、戦後は廃墟から国の再建が進んだのが揺籃期、朝鮮動乱下での好景気にも助けられ神武、岩戸、いざなぎ景気と高成長を達成したのが成長期、オイルショックから立ち直り、バブル景気になったのが成熟期、そして、その後の構造不況、長期デフレが衰退期だったと考えられます。

そのサイクルで考えると私は現在、日本が第三ラウンドの揺籃期に入っているのではないかと思うのです。世界の地政学的環境がまったく変りつつある中で日本の立ち位置を模索している時代なのでしょう。確かに国内的には2012年ごろから少しずつ改善は見られるように思います。それでは日本が成長期に移る条件は何か。それは危機感ではないかと思っています。揺籃期の特徴は、明治維新や戦後に日本人が持ったような危機感です。その意味でもし現在が第三の揺籃期であるなら、足りないのは危機感ではないでしょうか。

今、こんな言葉を思い出します。『一言をもって国を滅ぼすべきものありや。『どうにかなる』という一言、これなり。幕府が滅亡したるはこの一言なり』。これは幕臣で非常に優秀な小栗上野介の言葉です。

本当に危機感を国民全体がシェアして、みんなが選挙に行き、みんなが日本はどういう方向に向かっていくのかをそれぞれの価値観で決めていくことが、これからの日本に必要だと思います。そのようなことができていくと、世界全体に誇れる一つのモデルになってくるのではないかと思います。 白か黒どちらが勝つのかではなくて、いろいろなものを調和していく。これが和です。日本はある意味、興味深い歴史をもっています。そういう思想がもっと広がっていくことを私は期待しています。この兜日本株価指数を通じて思いが広がっていくこととなりました。