【Vol.284】エクスパート・オピニオン 

金融史観~金融史が語る資産形成の未来~
③資産運用の歴史は株式投資の歴史ではない(1/2)

平山 賢一東京 海上アセットマネジメント チーフストラテジスト
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※フィナシープロ 「金融史観~金融史が語る資産形成の未来~」より同社の了解を得て再掲
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かつて株式は資産運用の主役ではなかった

現在でこそ資産運用の主役は、株式投資ということになっているが、19世紀半ばまでの資産運用は、自らが営む事業への出資を別にすると、公債への投資、もしくは不動産保有や貸出(融資)であった。そのため、キャピタル・ゲインを狙う積極的な資産運用というよりも、インカム・ゲインを積み上げていく安定運用という性格が濃かった。

永久公債や年金公債は、近世以降にイタリア諸都市群、オランダ、英国などで頻繁に発行されるようになったため、古代や中世における余剰資金の運用は、都市部における高利貸や質屋(Pawnshop)の営みか、地主による不動産貸出に限られていた。もちろん、古代より商人の裁定取引や、航海ごとに設立されては解散される遠隔地交易への出資などもあったが、その案件に関与できる人々は一握りであり、資産運用の大宗はインカム・ゲインの獲得を目指したものであったと言えよう。

一方、株式投資は、一時的なバブル期(18世紀の南海バブルやミシシッピーバブルなど)に、取引が活発化されたのを除くと、必ずしも金融商品として広く浸透したわけではなかった。ごく限られた商人・富裕層コミュニティ内での私募株式投資や事業出資が主軸であったと言えよう[1]。その後、19世紀の英国や米国では、株式をめぐる投機的取引が繰り返され、バブルと恐慌が繰り返されたが、多くの庶民が金融資産を保有して、株式投資が一般化したわけではなかった。また、19世紀後半の米国の株価指数を確認しても、業種の偏りが大きく、株式市場が経済全体の成長を示すものではなかった。たとえば、1890年代のニューヨーク証券取引所の上場株全体の60%が鉄道会社の株式であった。株式市場では、「公益事業株や工業株は、機関投資家達から極めて投機すぎると見なされていたので、鉄道株はおのずから優良株にのし上がっていった[2]」とある。つまり、機関投資家などは、安定的な配当を期待できる鉄道株を、インカム・ゲイン獲得を目指した社債投資の一種と捉えていた可能性がある。

積極的なキャピタル・ゲイン追求は、機関投資家にあっても浸透していなかったとすれば、一部の投機的な個人投資家を除けば、大衆に浸透していたとは言えないだろう。

年金を通して株式投資が本格化した第二次世界大戦以降

第一次世界大戦後の1920年代、米国経済は好調に推移し、株式市場も顕著なバブルを演じた。ブローカーズ・ローン(取引所のブローカーへの証券担保貸出)の拡大や会社型投資信託の隆盛により、大いに株式投資の機運が盛り上がったのだ。しかし、1929年の株価大暴落を契機に、資金は再び債券投資へと回帰する。この株価変動も、投機家が主役を演じるバブルとバーストの様相が強く、株式の長期保有を前提とした投資に参画したわけではなかった。現代のように、ポートフォリオの中核として株式を長期保有するようになるのは、第二次世界大戦後を待たざるをえなかったのである。

以下次号に掲載します。


[1] 1602年には、世界初の株式会社とされるオランダ東インド会社(VOC; Verenigde Oost-Indische Compagnie)が設立されている。杉山伸也(2014)『グローバル経済史入門』岩波新書によれば、「オランダ東インド会社の毎年の配当率は25~40%の高率にのぼった」(31頁)とのこと。

[2] Chernow, R. (1990), “The House of Morgan: An American Banking Dynasty and the Rise of Modern Finance”, Atlantic Monthly Pr.、(邦訳)ロン・チャーナウ/青木榮一訳(2005)「モルガン家・上 金融帝国の盛衰」日本経済新聞出版、(文庫版)124頁。 

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