【新連載】金融史観~金融史が語る資産形成の未来~
②資産運用の歴史は富裕層の歴史でもあった(1/2)
平山 賢一 東京 海上アセットマネジメント チーフストラテジスト
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※フィナシープロ 「金融史観~金融史が語る資産形成の未来~」より同社の了解を得て再掲
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富の偏在と限られた資産運用ニーズ
資産運用の歴史探求は、富(とみ)の蓄積をめぐる旅である。かつてより、人々の消費を上回る生産や取得があってこそ、余剰は生まれ、その余剰が蓄積すると富になっていった。消費を上回る生産力を確保するに従い、富が蓄積されていったわけだ。富は、当初は、小規模な穀物や牛といった原始貨幣であったものの、やがて流動性の高い銀などの金属貨幣として蓄積されるようになる。それと同時に、富を生み出す生産手段である土地や労働力(奴隷)なども含めて、その規模を拡大させていった。その上で、次第に人類は、その富をどのように活用したらよいのかという資産運用の課題に直面するようになる。
この富の保有は、多くの人々によって広く薄くなされるものではなく、一部の政治権力者や商人といった少数の人々に限定されていたという特徴がある。富の偏在性と言ってもよいだろう。それだけに、資産運用ニーズは、ごく一部の富裕層に限られており、その手法やノウハウは、多くの人々に共有される性格のものではなかった。現代を生きるわれわれは、お金に関する知識や判断力(金融リテラシー)についての教育が不足しているという声をよく聞く。その遠因は、富の偏在性の歴史にあったのである。そもそも多くの人々が金融資産を保有するという時代は、最近の数十年に限られており、数百年単位では圧倒的に金融リテラシーは富裕層にのみ求められる類のものであったからである。
富が集中する時代と資産運用の大衆化
それでは、富裕層とはどのような人々を指すのか。中世以降の富裕層は、メディッチ家やフッガー家といった大規模商人たちであり、庶民と比較しきれないほどの富が集中していたという。さらに近代に至って富の集中は進み、産業資本家や19世紀末以降のモルガン家に代表される金融資本家といった少数の富裕層が、富裕層の主役となった。王室や政治権力と結びつくことで、多くの資金を融資や投資に回すようになった。資本家としてあらゆるプロジェクトのスポンサーとして、保有する資産の運用を進めてきたのである。
しかし、第二次世界大戦後は、社会福祉政策の拡充が推進される中で、年金制度の確立に加え、米国の401(k)に代表される確定拠出年金が台頭してくる。戦後生まれのベビーブーマーが年齢を重ねるに従い、先進国では中間所得層の増加により、富が広範囲に蓄積されるようになった。また、平均寿命の伸長は、老後資金を確保するための資産運用ニーズを高めるようになったのである。「資産運用の大衆化」と言ってもよいかもしれない。欧米の家計が保有する株式比率の高さも、この文脈で捉えるべきかもしれない。
ただし、特に1990年代以降は、主要国での利益の分配構造が変化し、企業経営者・株主を主軸とした分配が加速し、富の格差が再拡大している。米国の国民総生産に占める雇用者報酬率の低下と企業利益率の上昇が示すように、企業の生み出す付加価値が経営者や株主により多く配分されるようになっている(図1)。株式をより多く保有する富裕層の富がさらに拡大する一方、特に確定拠出年金等を通した株価上昇の恩恵にあずかれない人々との格差が拡大しているわけである。その意味では、第二次世界大戦後に進んだ主要国での「資産運用の大衆化」も揺り戻しが発生し、富裕層のための資産運用へと部分的には回帰していると言えそうだ。
以下次号に掲載します。
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